No.7(ほたる)
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今朝は、早めに起きて釣りに行くつもりだったのだが寝坊をしてし
まった。お茶を入れながらガラス戸越しに空を仰ぐ、 暗い、たぶん
そのうち降り出すだろう。『行こうか、止そうか?」迷うが行くこ
とにする。
車で、栃木の大芦川に向かった、途中の水田は稲穂で一面緑に被わ
れている。4号線の車はスムーズに流れている。上河内を過ぎるあ
たりから空はより暗くなりいきなり篠突くような雨になった。その
状態が30分ほど続く。すれ違う車はそれぞれにスモールかフォグ
ランプを点灯し水しぶきを巻き上げ走っている。わたしは、雨降り
はあまり嫌いではない。タイヤが雨を弾く音を聞きながら運転をす
るとなんとなく気持ちが落ち着く、ラジオを聞きながら適度のスピ
ードで走らせる。
雨が止むようだったら今日の昼食は、コンビニ弁当はやめにしてス
ーパーマーケットで材料を買って作ろう。鹿沼市内に入るころには
少し雨足が弱まって来た。スーパー、ヤオハンの駐車場に車をれ、
傘をさし、なれた店内に入って行く。カゴを手に買い物おばさんに
変身。売り場をぐるりと回り、豆腐、ねぎ、えび、モヤシ、エノ
キ、豆板醤、おにぎり、桃、オレンジと、お土産に杵屋の生そば入
れレジで支払をすませ、それを車のトランクのクーラーに入れスー
パーを後にする。
スーパーの坂を登り、十字路を小峰原方面に右折する。ここからは
道が川沿いに続く。雨は小降りだが相変わらずだ。古関のあたりで
左に折れ、橋を渡り下流に100mほど下がり 稲山の松林に車を乗
り入れる。松の木が格好のターフがわりをしてくれるのでコンロを
出し大形のコッヘルに水を入れ火をつける。
椅子とテーブルをだし川が良く見える位置に据え、沸いたお湯を少
し使ってコーヒーを入れコッヘルに水を足してまたコンロにかけて
おく。椅子に座りコーヒーを一口すする「あつぅー」ステンレスの
カップの縁が熱く唇をやけどしてしまった。
雨のせいなのか川に釣り人はいない。たまに、対岸の道路を車が通
るぐらいだ。釣りをするには環境も 条件もいい。私はすでに川の中
に立っているような気分になる。しかし、そんな気分を一旦、横に
置いて昼食の準備にかかる。煮立った大形コッヘルのお湯の中にだ
しの元、豆腐、海老、次に豆板醤,少しかき回す。洗ったエノキ、を
入れ味噌で味をととのえ、最後にモヤシを入れ煮立つまぎわにねぎ
のみじん切りを入れて完了、5、6分間の調理。テーブルにのせ車
からおにぎりを取り出す、今度はやけどに気をつけながらスープを
すすりおにぎりを。「うまい。」箸で豆腐を口へはこぼうとすと、
頭上の松の枝先からしずくが「ぽとり」とスープの中に落ちる。
着替えて川に入るころは、また、雨は強くなり水面をたたき波立た
せている。これで出るかなと思いながらひざ上ぐらいまで川に入っ
て行く。降ってはいるが水の透明度は高く白い川底の石が良く透け
て見える。半信半疑で毛ばりをチペットに結ぶが、それを雨粒がた
たく。ドレッシングをつけようとボトルのキャップを開けると手が
滑り川面に「ポトリ。ゆらゆら」と沈んでしまった。
「あああ・・。なんとゆうことか!!」
雨のせいだと恨みに思いながらキャストすると白い大きな石の脇か
ら、いきおい良く20cmほどの山女魚が#14の毛ばりを襲って
きた。寄せてそのまま水中で手に取ると相変わらずきれいな山女魚
だ。そのまま放す。毛ばりを取り替えるがドレッシングがないので
できるだけ濡らさないように気をつけハックルを密に巻いたものを
選んだ。同じ位置から今度はさっきほどの石の1m上流にキャスト
すると#14に20cmほどの山女魚が・・・・・・・
そんな状況が40分ほど雨が止むまで続いた。その後は喰いが急に
渋くなってしまった。サイズとすれば20cm前後ばかりだったが
十分満足できた。雨の日の釣りもいい。
少し休もうと松林にもどることにした。辺りは明るくなり雨雲は去
りはじめた。『むっ』とした空気が流れる。気温が上がりはじめた
のだろう。ネオプレーンのウエダーの中は汗が溜まっている。夕方
の釣りまで脱いで乾かすことにしよう。シャツと半パンに着替る。
コーヒーを入れ、濡れたシャツでテーブルをふき、クーラーから冷
えた桃を出す。ナイフで皮を剥くが待切れず半分剥いたあたりでか
ぶりつく、冷たい果汁が喉を流れ乾きをうるおす。まわりに甘い桃
の香りがただよう。
椅子に腰掛けコーヒーを口にしながら先ほど釣っていた流れに目を
やると午後の光に照らされキラキラ輝ている午前中と別物の風景に
見えた。山の天気は変わり身が早い。
対岸の土手に白いヘルメットをかぶった小、中学生達が三々五々と
学校から帰って行くのが見える。
もう少し休もう・・・・・。
椅子に深く腰掛けわきの大きな石に足を投げ出す。
1時間ほどだろうか、うとうとしてしまった。一口冷たい水を呑む
「よーし!、かたずけて引田橋の上流に行くか、」太陽はオレンジ
色に変わり大芦の杉樹立を染めはじめている。
車のトランクに荷物を入れ出発、「15分ほどで行けるだろう」引
田橋の上流から河原に車を乗り入れ、まだ少し濡れているウェダー
に着替え芦をかき分けながら川に出た。岸からすぐに水深は2mは
ある。ドライで釣り上がって行くと上流は大石が点在した雰囲気の
いい所が続く、が山女魚は姿を見せない。小さな堰堤まで来てしま
ったので引き返すことにした。先ほどまでの勢いは姿を消してしま
い肩に疲れが重くのしかかって来た。たばこに火をつけ石に腰をお
ろす、頭の中は休止状態だ。
陽が落ち薄暗くなって来るのを気にしながら立ち上がり、車のある
所までウエットをシングルで流してもどろうと思いキャストし始め
る。ウエットは最近よく巻く#12のサーモンフックに短かめのシ
ールとティンセルのボディー、CDCの多めのウィング。それを下流
へ、くり返し、くり返し流してゆく単調な時間が過ぎて行く。深場
の所まで下がってきた、ここだけはと丁寧にキャストをつづけてい
ると対岸、斜下流20ヤードほどで流れたウェットが反転する か、
しないかとゆう辺りでグーンとロッドに力が加わった。手ごたえと
すればそれほど大きいとは思えないが丁寧によせる。山女魚だ。暮
れてしまった川岸に腰をおろし水の中に手を入れ、山女魚をのせる
と暗さの中で小さなウロコが銀色に輝く。フックをはずし山女魚を
水にもどしながら顔をあげ、何気なく対岸を見ると小さな光が揺れ
るように移動している。初めは民家の灯りかと思ったが、それはホ
タルの光りだった。何度もここには釣りに来てはいるのだがホタル
に会ったは初めての事だった。
「今日は、もうここで終わろう。」
そうして少しホタルを眺めていよう・・・・・・・
川岸に腰を下ろすと、そのままの時間が青黒い夜の闇に解けるよう
に流れて行く。どのくらい経ったのだろうか? 疲れで、半分魂が
抜けたような状態でホタルを見続けていた。
このままだと切りが無さそうなので、思いを断ち車にもどる。トラ
ンクを開けクーラーのペットボトルに残った冷たい水を飲み、椅子
を出し腰掛けると夜風が心地いい。ため息を一つつき頭を後ろに反
らし天を仰ぐと無数の星がきらめき輝いている。