No.44(早秋−1)



九月も終わりに近いころ檜枝岐に向かった 塩原温泉を過ぎ福島に
入ると 山々の合間から見える空は夏の終わりを告げ始めている
いつものように「道の駅」に立ち寄り地元産出品の朝取れのトマト
キューリ ト−モロコシ アスパラを購入した

檜枝岐の裁ちそば屋の並ぶ町を抜けキャンプ場に着く 顔なじみの
おばーちゃんに入場料を払いキャンプ場の一番奥の水場のある所ま
で車で入って行く とりあえず川縁に椅子を出しクーラーからビー
ルを取り出し一口
遅い午後の風が顔をなぶってゆくシーズンは終わったのか 廻りに
テントは見当たらない

たぶん今年もこれが最後の釣りになるだろう

一息つき ねぐら確保にターフ テントを張る テーブルを組み立
てながら水場のかまどを見ると先客の残した薪がかなりある 

そうか 今夜は岩魚を釣り骨酒を作ろう・・・・・

骨酒はガス火や電気コンロなどでは焼き上がりが悪く味がでにくい
 炭火か たき火の遠火でじっくり時間をかけてからからになるく
らいまで焼くのがいい 日本酒は安いものがいい そして熱燗が必
須 能書きはこれぐらいしにて釣りに行かなければ骨酒はお預けに
なってしまう
「さぁ 着替えよう!」

キャンプ場から川に下りる すぐにプール さい先良く3投目に
20cmほどの岩魚がでてきた 「どうしよう キープか?リリー
スか?」できればサイズはもう少し大きいものが欲しい 釣れる宛
は無いが・・・ 
「でもいいか!」 リリースする

2時間ほどで一つ目の堰堤下まで釣り上がった 陽は山に隠れ薄暗
くなってしまった ここまでに4 5匹釣れたがすべて似たような
サイズだったので放した この堰堤下のプールは必ず出るところな
のだが 今日は?

空中に#14のアダムスが前後に2度飛ぶ それが流れに着水しい
一尋ほど流れたところで白波が立ち 岩魚が反転し尾びれを見せた
その刹那 私は竿を上げた 岩魚の右往左往する動きが水中から伝
わってくる

足下に寄せると横になり腹部が暗闇の中で黄金色に輝いて見えた

「よぅ−し この岩魚を持って帰ろう」

暮れた中を土手に生えた蓬の茎につかまりながらよじ登り林道に出
る 荒い息をしながらベストからミニライト取り出し その小さな
灯りを頼りにキャンプ場に向かって歩き始めた 見上げるとわずか
に覗く夜空だけがわずかに明るい

周りの闇の中で擦れ合う木の葉や雑草の音に驚く だったらこんな
時間まで釣らなければいいのにと思うこともあるが  そんな思いを
35年も続けている
キャンプ場にもどりウェダーを脱ぐと冷えた夜の風に鳥肌が立つ
 ビーチサンダルに履き替え薪で火を起こす 火が着いたところで
岩魚の腹を出す それを近くに生えている熊笹を竹串にして刺し
たき火の縁にたてる 椅子に腰掛けて「ピチ ピチ」と音を立てて
ウイスキーの蓋を開けグラスに注ぎ口に含む 舌の上に一瞬とどめ
てから喉の奥に流し込んだ「ホー」と
ため息とも叫びともつかない声が・・・・
それから奥歯をゆっくり噛みしめた

飯ごうに米を入れ研ぎ 勘で水を入れ岩魚の隣の火にかける 

テーブルに残ったウイスキーのグラスに月の光が刺す それを取り
上げ飲み干す 後はたき火を見ながら岩魚の焼き上がりを待つだけ
だ 時々薪を加ながら・・・・

特大のコッヘルにワンカップを2本入れ燗をする 熱燗にしてこん
がり焼けた岩魚をゆっく滑り込ませ4〜5分待つ それからうやう
やしく唇をコッヘルの縁につけると骨酒の香りが鼻孔から脳に流れ
てゆく 一口すすると香りは胃に入りそれから全身に広がっていく
ようだ 口中に甘味が微かに残る
骨酒を作る事は滅多に無いがそのたびにそれぞれの釣のいい思い出
になってゆく

深夜 山にかかる月を見上げテントに入る


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