14)夏の日
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亡くなった父の3回忌 8月の焼けるように暑い大分空港に下り立つた
積乱雲を抱えた青い海から懐かしい潮の香りが流れてくる
お盆にはまだ間があるせいか空港ターミナルは閑散としている そこを
通り抜けバス停に向かう 時間表を見ると国東方面行はまだ20分ほど
の待ち時間があった 待っている乗客は誰も居ない
喪服の入ったバッグをベンチに置き滑走路の金網越しに海を見る 白と
黒の精悍な双発機が十字のプロペラを鏡の様に輝かせて待機している
何処に行くのか?
日陰を吹き抜ける海風は一瞬暑さを忘れさせる そのまま出発時間まで
吹かれるに身を任せた
実家に着くと親戚が集まり明日の3回忌の準備が進んでいる すぐに着
替え手伝う 長い間無人だったせいで3台のエアコンはすべて冷えない
窓を開けて作業をするが汗が流れ落ちるというより吹き出るようだ
病院から一時退院した母が張り切り過ぎているのが気になるがいっても
聞く耳を持たない人だから・・・・・
それでも「いいから 座ってなよ!」と少し語気を強めに何度かいった
がなんの利き目も無い
いい人なんだけど・・・・・・
午後4時を回る頃ようやく終わった 台所でひと休み 汗は出切ったの
ではと思われるほど全身は濡れている シャワーを浴びると生き返った
一息付き久しぶりだから友達に連絡をしようかと思ったが久しぶりとい
う事が却って邪魔になり躊躇してしまった 暑い家に居るのも辛いので
花山(岬)に散歩に行く事にした 今となっては父の遺品になってしま
った黒い鼻緒の桐下駄をはき家の裏から坂道を下りていった 隣家の欅
に熊蝉が忙しそうに鳴いている 関東ではほとんど見かけない大きな蝉
だ
堤防まで下り着くと水平線に島が浮いて見える きつい日射しをさけ腰
を下ろす 海風が素肌に気持ちいい 海辺の送り物を受けながら仰向け
に寝転がると目の中は青い空と白い入道雲だけになった 見ている内に
ゆっくりと眠気が襲ってくる
3分 5分? 時間は分らないが寝てしまった 上半身起こして再び水
平線に目をやる 右方向に灯台が見える 日ざしは強いが歩いていって
みる事にする
防波堤のコンクリートは陽に焼け陽炎が立っている その中を汗をかき
ながら歩いていると遠くに人影が見えて来た この炎天下の暑い中を好
き好んで・・・・・
いったい誰だろう 私は壊れたエアコンの家よりはいいだろうと思い歩
いているのだが・・
近づく 二人の距離がより接近する かいま見るその顔は赤銅色に焼け
てはいたが見覚えがあった 小学1年生の時のクラスメイトだ 障害者
であった彼はあまり学校にも来てはいなかったが I君に間違いない
そのまますれ違う彼は空ろな目でわき見もせずに通り過ぎ去った この
50年をどう生きて来たのか? 50年前のことをポッポッ思い出し桐
下駄の乾いた音を聞きながら港へ向かってあるいた
突き出た灯台の下に腰かけいっそう強くなった海風を全身に受ける は
ためくズボンとシャツが流れる汗を吸う 裸足になり足を投げ出し遠く
に浮かぶ島を眺める そういえば子供の頃ここに来て同じような事をし
ていたように思う 港を泳ぎ渡ったり 夜は灯台の灯りに照らされなが
ら夜釣りもした
山に傾いた夕陽が海を照らし始めた 「帰ろうか?」
薄暗くなる頃家に着くと 暑さと無理が過ぎ母が体調崩してしまい救急
で病院に運ばれるところだった 付き添って行こうと思ったが「いい
いい あなたは明日があるから」と7人叔母に止められた 3人でかし
ましいところを7人で止められては・・・・・
納得しながらのこった
翌日の3回忌はエアコンのない蒸し器の中ようなところで焼香の煙りに
燻され半分薫製になりながらも滞りなく終わった
夜になり親戚は皆帰り一人きりになった 私も今夜帰るので汗を流そう
と風呂に入る それほど気を張っていたわけでは無かったが疲れが雫が
落ち
るように出て来た 風呂を上がりキッチンでビールを呑む 飲みながら
ふっと母のことを思う
「あと 何度会えるのだろうか・・・・」
ビールを飲み干し 最終便にのらなくてはと準備にかかる
荷物を持ち電気を消し外に出て玄関の鍵をかける
私は暗い道をタクシーで空港へ向かった