13)雪舞
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「そろそろ行きますか?」話しは、そこから始まった。シーズン
インして間もなく4人で福島、加藤谷川に行くことに・・・・
東北自動車道を那塩原インターで降り400号を田島方面へ、田
島の町を抜け加藤谷川の最下流の橋を渡り支流との合流にでる。
車を降り山を見上げると白く雪がまだまだ残つている。空は暗く
おもい。春陰というやつか。
ターフを張りテーブルを出す。それから各自のテントを張りにか
かる。夕食の大体の準備まで完了させた。
さァーこれから釣りだ。4人それぞれ思い思いの場所に入って行
く。川原はまだ、葦が枯れたままで新芽はまだ出ていない。踏み
付けて歩くと「バキッ、バキッ」と乾いた音が聞こえる。
小さな流れを見つけ毛ばりを投げる。川面に落ちた毛ばりはたお
やかな波紋をつくり、それからゆっくりと解きはなされように流
れだす。
それをくり返し上流に釣上がって行く。
「出た。」
寄せてみると小さな山女魚だ。水中で横に寝かせて見ると、ブル
ーと言うよりは紫色に近いパーマークの色をしており尾ビレの端
はもみじ色に透けて見える。鱗は空の色を映し銀色に・・・・
それを眺めながら流れに戻す。
「行ったか・・・・」何となくなごりが残る。
渓流魚には山女魚と岩魚が代表的な魚だが、綺麗さに関しては優
劣を付けがたい。例えば山女魚は芸者の着物姿の粋な涼やかさが
あり、岩魚には花魁(おいらん)の艶やかさがある。花に例える
と「梅の花」と「桜の花」の感がある。どちらにしても手放しが
たいのは釣り人の性なのだろう。
陽は山脈に姿を隠し雪のかかった朝日岳、三本槍岳が宵の空を持
ち上げるように、ほのかに白く輝いている。
テントサイトに戻るとまだ誰も戻っていない。ランタンに火を入
れ、鍋でお湯を沸かす。気温は下がって来たのだろう。かなり冷
え風も出て来た。薪を燃やそう。杉の枝葉に火を付けると暗い闇
夜にオレンジ色の炎が上がり「パチ、パチ」と火の粉が風に舞う。
ダウンに袖をとうし椅子に座りビールを飲みながら皆の帰りを待
ことに。あいにく持参はしていないが、この寒さではバーボンの
お湯割りがいいな〜と心から思う。
待っていると暗闇の中から一人、二人と姿が現われた。それぞれ
それなりに釣果はあつたようだ。鍋のお湯も丁度沸いた。
「今宵はチゲ鍋だ」材料をかまわずに入れて行く。白くあがる湯
気と味噌の香りが食欲を頂点まで引き上げる。
テーブルに付き四人でいただきますだ、その時急に突風が吹きは
じめUさんのテントが、コロ、コロ、コロ、コロ」転がって暗い
川の中に落ちてしまった。ペグを打ってなかったらしい。食事は
中断して4人で引き上げにかかる。テントの中に水が入り引き上
げも一苦労。ようやく上げて椅子に腰をおろすと、またまた突風
で再度テントは川の中え、さらにN君のターフも凧のようになり
川へ。さらに雨も混じりはじめ大騒ぎ。「ようし、解った、解っ
た」私は、大声で皆に呼びかけた。ターフも、テントも幸い木に
掛かった状態なのでとりあえず食事を優先することを提案した。
皆も聞き入れてくれ、風雨中で「天の恵み」の振り込む「チゲ鍋」
を食べる。そんな状況でも体は暖まってきた。
さて、次はテントとターフの回収だ。川から引き上げペグを打ち
Uさんのテントを固定する。ターフは風雨が強くなり、とても張
ることは不可能なので丸めて車の下に押し込んだ。
フロントガラスをみるといやっはや雨はみぞれに変わりランタン
の光に照らされきらめいている。
これではもう、寝るしかなくなつてしまつた。それぞれ自分のテ
ントに潜り込んでゆく。シュラフに入る。体が序所に温まる。
外のランタの灯りに照らされたフライシートにみぞれが小鳥の足
跡のように「ペタ、ペタ」と落ちて来る。
その小鳥の足音を聞きながら眠りに落ちて行った。
どのくらい経ったのか、私は、軽い風の音で眼をさます。
「何時だろう」時計は持たないので正確な時間は分からない。
真夜中過ぎか?
フライシートのチャックを開け醒めやらぬまま外に顔をだして見
ると闇夜に雪が舞っている。やっぱりみぞれは雪に変わっていた。
シュラフに入ったままライトで暗天を照らすとそれは上品な総絞
りが天に舞っているように見える。
私はそれを羽織、もう一度寝ることに・・・・・・
「明日は雪の中の釣りになるのか・・・」そんなことを考えなが
ら再び、 まどろみの中に沈んで行った。